します。それほどシンプルで、ハンドルの機
能がそのまま形状になったかのような素直
さがある。一見、まったく逆の方向性を持つ
シリーズがあることで、それぞれの魅力が際
立ってくるように思います。
谷尻:
ふたつのシリーズがあって、お互いの
関係性が生まれていますよね。これからの
時代は、ものの個性がしっかりとストーリー
として見える仕掛けが必要です。例えば、
さまざまなメディアを使って、ストーリーを
プレゼンテーションできる状況を増やすこ
とで、その場における言葉や伝達の仕方で、
ものの関係性に価値が付加されていくのだと
思います。
自分たちでハンドルを選ぶ時代
馬場:
最近、「 東京
R
不動産 」の延長で「
R
不動産 tool box 」というプロジェクトを始
めました。これは、建築の金物や部材、塗料、
壁紙などを取り揃えたセレクトショップ
みたいなもので。「東京
R
不動産」にリノ
ベーションをしたいと相談に来るお客さん
はたくさんいるんですよね。だけど、みんな
プランを相談しているうちに、僕たちが脱
帽してしまうほどいろんなアイデアが浮か
んできて。そういうセンスの良い人が多い
ですよ。
谷尻:
そうですよね。センスの良い人なんて、
デザイナーに限らずゴロゴロいます。
馬場:
だけど、そういう人たちの多くは、自
分でリノベーションに取り組もうとしても、
まず、天井を落とすのにどの工務店に頼んで
いいのか、また建築資材や道具をどこで買え
ばいいかわからない。日本では、企業だけしか
取引を行わないような流通形式が未だにあ
るんですね。ただ、それを変える「
R
不動産
toolbox 」的な動きが一般的になれば、今の
情報伝達や流通の仕組みが大きく変わるはず
なんです。そう考えると「
zero
」
のように熟
考されたデザインが、今まで以上に必要とさ
れる時代がくるかもしれない。
谷尻:
そうなったときに、ものとものの関係
性の中にメッセージがあると、例えば「それ
を使ってみたい、触ってみたい」という興味
が生まれますよね。「安いし便利」よりも少
し不便かもしれないけれど、「使ってみた
い」という気持ちが強くなる。
馬場:
少しずつ消費しなくなっているから
こそ
1
個を選ぶことに慎重になるし、どうせ
1
個選ぶなら自分で納得したものが欲しい。
今後は、見えない消費者を想像してつくる時
代から、今まで流通に乗らなかった建築金物
のような商品を消費者が直接選んで使う時代
に変わっていくのだと思います。自分が住む
空間、経験する空間を、自分自身で編集して
つくっていくような時代がやってくる気が
しますね。
谷尻:
そう思います。これからは、主体性が
キーワードになってくるでしょうね。例え
ば、
amazon
で本を買うときなど、事前に本
の雰囲気をいろんなところで掴んで、理解
したつもりで買っている。それは建築金物
においても一緒で、そのもののストーリー
がフックになることがあれば、急に欲しく
なるんですよね。
馬場:
その状況のなかで、これからは、はっ
きりと意思を持ってデザインされたものが、
共感と共に選ばれることが一般的になるで
しょうね。今は、メッセージを発しているデ
ザインとパーツが、メッセージを求めている
人の元に届く回路がほとんど無い状態です。
流通の仕組みが変わることで、レバーハン
ドルを含む建築金物を選べるような時代に
シフトしていくのだと思います。
1974
年生
まれ
。
2000
年、建築設計事務所
Suppose
design office
設立。住宅、商業空間、会場構成、
ランドスケープ
、
プロダクト
、
アートのインスタレー
ションなど
、
仕事
の
範囲
は
多岐
にわたり
、
広島・東京
の
2
ヵ
所
を
拠点
に
、
多数
のプロジェクトを
手
がける
。
谷尻誠
/
Makoto Tanijiri
沼袋
の
集合住宅
八木
の
家
10
DIALOGUE 01
1968
年生
まれ
。
早稲田大学大学院建築学科修了。
博報堂、早稲田大学博士課程、雑誌『
A
』
編集長
を
経
て
、
2002
年
Open A
を
設立。都市
の
空地
を
発見
するサイト
「
東京
R
不動産」
を
運営。建築設計
を
基軸
に
、
メディアや
不動産
などを
横断
しながら
活動
している
。
馬場正尊
/
Masataka Baba
TABLOID
観月橋団地再生計画
©TABLOID