状況からプロダクトを考える
馬場:
zero
を一目見て、建築家がつくっ
たプロダクトだなと感じました。机に置いて
見てみると、まるで建築のようですね。この
ままレバーハンドルを巨大化させても、建築
としての秩序を保っているのではないかと
思います。
谷尻:
ありがとうございます。確かに、建物
のようにも見えますね(笑)。このレバーハン
ドルは、「 建築家として、空間の中でものを
どのように存在させるかを考えてください」
というお題をいただき、初めてデザインした
プロダクトです。空間に溶けるようなイメー
ジから、まずは、シンプルとは何かと考えた
んです。当初は、とにかく、小さく、薄く、細
いものを求めてしまい、プロトタイプでの段
階では、すべて実現不可能なものばかり提案
していましたね。
馬場:
そうですよね。建築をつくる視点で
考えると、できるだけ要素を削ぎ落とすこと
で、極端に美しくしたり、存在感を消したり、
強く折ったり……という衝動にかられてし
まう気持ちはわかります。
谷尻:
ただ設計部の人たちとの打ち合わせ
を重ねていくごとに、押さえるべきポイント
がわかるようになっていきましたね(笑)。
また、レバーハンドルには、建具という敷地
があるのだと考えると、敷地と建物の関係を
考えることと一緒だなと気づいたんです。
建築を小さくしても風景に溶けるわけでは
ないし、また異なる視点からアプローチし
た方がいいだろうと思い、今の形へとシフト
していきました。
馬場:
敷地と建物の関係とおっしゃいまし
たが、まさにその感覚がありますね。スケー
ルアップしても成立している形なのだけれ
ど、あくまでもプロダクトであるという点に
不思議な感覚がありますね。
谷尻:
今まで建築をつくるために、建築以
外のことを考えることが多かったのですが、
今回のプロダクトについても同じで、既存
のレバーハンドルからものごとを考えるの
ではなくて、それが使われている状況や人
とものの関係性について精査していく時間
がほとんどでした。そこから形を見いだし
ていったので、より形状にも強度が生まれ
たのだと思います。
馬場:
世の中に何かを発信するとき、現実を
ゴロリと動かす、決定的な力を持っているの
はやっぱりものだったりする。ただ、ものの
形だけを考えるのもダメで、そこに出来事や
思考をどう生み出すか。形状によってつな
げて考えていく感覚は、大切にしたいですね。
ものの背景にあるストーリー
馬場:
谷尻さんがデザインされた「
zero
は、
主に個人住宅の方が選ばれていると聞きま
した。僕も建築金物を選ぶ際には、なるべく
空間や建物と調和するように、シンプルなも
のを選ぶようにしているんです。またその
逆で、プロダクトデザイナーは、マスに対し
て常にメッセージを発する訓練をされてお
り、ディベ ロッパーや顔の見えづらい相手
に対して支持を得やすい。「
warm
はそう
いった要望にも対応できるデザインですね。
谷尻:
倉本さんのプロダクトを見ていて、ど
のような思考プロセスでこの形状が導き出さ
れたのか、すごく興味を持ちました。このプ
ロダクトが持つ特長を、雰囲気や身体的な言
葉で理解できるように考えられていて、形状
の背後にあるストーリーを汲み取りやすい。
そういう点が、プロダクトデザイナーの職能
として、常に社会と関係を持っている部分なの
かなと思いましたね。すごく感覚的ではある
のですが、触ってみるとそれに納得できるもの
の強度があります。
馬場:
たしかに、頭と身体どちらかで考える
場合、圧倒的に身体で考える方がわかりや
すい。レバーハンドルも触ってみて気づく
ことが多いです。一方で、谷尻さんのハンド
ルは、設計プロセスが想像できるので「説明
しろ」と言われたら説明できるような気が
必要な機能だけが美しく、空間に溶け込むようなシンプルな形状が特長の「
zero
シリーズ。
そのデザインを手がける建築家・谷尻誠氏は、建築のみならず、トークイベントなどの出来事
も設計している。また、リノベーションや不動産業などを中心に、建築をとりまくものごと
の価値を再提案する建築家・馬場正尊氏も、出来事から広い意味でのものづくりまでを
活動領域としている。そんなおふたりに、「
zero
が持つ魅力についてお話いただいた。
09
DIALOGUE 01
建築家
建築家
谷 尻 誠
馬 場 正 尊
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